以前しばらくは暖冬だったという記憶があります。そのころは温暖化が話題になりました。
しかし、すぐに冷夏と酷暑が交互に現れるようになり、ここ数年は冬の寒さが厳しくなりました。
最近目立つのが、爆弾低気圧という言葉でしょう。
これは四季を問わずやって来ます。特に日本列島上で台風のように発達する現象が、年を追うごとに激しさを増している感じです。
都市部ではビル風による突風のイメージがありますが、竜巻や強風による広域被害が多発しています。
災害が起きると復旧に追われますから、過ぎ去るとあまり記憶に残したくないのが心情です。しかし、そうした変化は増幅し、四季の流れが乱れてしまっています。
また生活習慣の変化か、花粉症に悩まされ、さらに大陸からの黄砂とPM 2.5で視界が悪くなると、マスクをしてゴーグルも付けたくなりそうで、まるで「風の谷のナウシカ」の時代がやってきたのかとも思ってしまいます。それに放射能ということもありますし…
こうした状況に曝されていますと、30年前に出版した『第3の選択』という本を思い出します。
この本はアメリカでは発売禁止になったといわれました。

弊社で1981年に翻訳出版したこの本の内容にもとづいて、翌年に矢追さんと特番を作り、大評判になりました。
記憶しているのは、当時は「異常気象」が世界的に起きだし、矢追さんが日テレの看板番組だった「木スペ」のディレクターとして、各国からそうした気象に関する映像を集めていたことでした。
人口増加と地球の危機
「第3の選択」のテーマは地球温暖化でした。
ストーリーは1957年にアラバマ州のハンツビルで開かれた秘密会議に端を発しています。
今から50年以上も前のことで、世界人口は30億にも達していない時代に、今日の状況を見通す内容になっていました。
この秘密会議に出席していた科学者の発言は次のようなものです。
「世界人口は21世紀に入ると65億に増えるだろう(現在71億)。そのとき30%の先進工業国人口比は20%を切るようになり、世界はより貧しく飢えたものとなるだろう…」
その後、中国やインドなどの経済発展がめざましく、貧困をしのいでいきますが、二酸化炭素やメタンなどの温室効果ガスの排出は増え、温暖化は加速します。
「60年代の終わりごろには、地球はすでに自らの汚染によって生じたガス体にすっかり閉じ込められ、熱がますます逃げにくくなり、炭酸ガスのレベルが8倍に増加し、地球の平均気温を押し上げてしまう…」
そして実際に、世界の異常気象が70年ころから始まりました。
『第3の選択』を出版したのが81年で、「木スペ」で放送したのは82年です。
温暖化による異常気象によって、地球が世界の人口を維持できなくなるため、一部のエリートだけが「第3の選択」として火星脱出をたくらんでいるという筋書きによって、この本はUFO問題にリンクしていました。
本の著者はフィクションとして書いたと言っていましたが、多くの真実が含まれていたとされ、それだけこの時代から環境の変化が危惧されていたわけです。
実際は寒冷化に向かう
温暖化現象は、250年ほど前に起きた産業革命から、私たちが火石燃料を多量に使うようになった人為的な原因で起きたものでした。
ところがその温暖化があるレベルに達すると、突如として地球が寒冷化に向かうということが最近、気象学的に明らかになってきたのです。
つまり現在は、温暖化と寒冷化の二つの衝突によって、不安定な気象現象を起きていることになります。ではその先にどのような気候変動がやってくるかということが問題になってきます。
これが映画「ザ・デイ・アフター・トゥモロー」の基になったデータとして有名な、2004年に公になった「ペンタゴン・レポート」の内容で、それが今日、より現実化しつつあるということを再認識しなければならないようです。
「ペンタゴン・レポート」とは、その名の通りアメリカ国防省(ペンタゴン)が作成した報告書で、アメリカという国家の防衛戦略上の文書として、2003年に秘密報告として出されたのですが、間もなくオブザーバー紙がその存在を暴露してしまったという経緯がありました。
この報告書にある「突如として地球が寒冷化に向かう」という結論は、不気味で、人々を不安にするという意味で秘密にされたのかもしれません。
しかしこの報告書の内容は、グリーンランドの過去何万年にもわたる氷床のボーリング調査や、古気象学に基づく科学的な結論として受け止めなければならないでしょう。
なぜ寒冷化するかといいますと、温暖化で氷河や極冠が解けた淡水が海水の塩分濃度を変えるため、海水の比重が軽くなり、今までグリーンランド沖で沈みこんでいた海流の下降が弱くなり、「海洋熱塩循環」といわれているこの流れを遅らせるからだといわれています。このため世界の海をめぐっている海流の流れが変わってくるわけです。

図:海洋熱塩循環
250年以上にわたる化石燃料の消費で上層にたまった温暖化ガスの結果として、地表の気温は1950年ころから、だいたい年0,3〜1,2℃というテンポで徐々に上昇してきてきたとしています。
これによって
「北アメリカ、ヨーロッパ、南アメリカの一部の気温が50℃を越える日数は1世紀前よりも30%以上増え、氷点下以下になる日数ははるかに少なくなる。
山岳地帯での洪水が増え、耕作地での旱魃は長引く。
そして温暖化が加速して1年間の温度上昇は倍になる。
森林地帯や草地も乾燥し山火事が起る。
2005年までには気象災害が増え、台風とその被害は益々大きくなる。
夏の北極氷山は2010年までにおおよそ無くなる。
2003年に比べて約4倍の数百万人の人が洪水の被害を受ける。
海水温度が変わるので魚の生息域が変わり、漁場が変わる」
というのです。
この予測は大方的中し、アフリカのキリマンジェロの万年雪が消え、夏には北極の極冠が消失しました。
このように、氷河や極冠が解けてしまうと、いよいよ海洋熱塩循環の変化が起きだすわけです。これが2010年からであろうと報告書は予測していました。
そしていよいよ、まさに今日のことになるわけです。
海洋熱塩循環の停滞によって、暖流が来なくなるとか、大気上層のジェット気流の流れが変わって、季節ごとの気圧配置に異常が起き、その結果として寒冷化が突如始まると「ペンタゴン・レポート」は警告します。
2010年から2020年にそれは起る
この報告書では「気温上昇がある閾値を越えると、突然10年間に3〜6℃の速度で気温が下がり始め、それが長期間続くことがある」というのです。
そのきざしとして、「世界の食糧生産国の冬の寒さを厳しくし、土壌の水分を減少させ、強風に襲われるようになる」という状況が起きてくるといっていますが、今年の冬くらいから起き出しているのではないかと思うのです。
中国の乾燥と水不足による黄砂、そしてインドでは干ばつによる小麦粉生産の低下がニュースになり、また日本で見られるように低気圧の発生が頻繁で、毎週のように寒気を含む強風が吹きまくっています。
一方、国際状況の奇妙な変化に気付いている人も多いのではないかと思いますが、レポートの予測にある「気候変動に最も弱い国は暴力的になる可能性がある」ということが、最近の資源や漁場の取り合い、あるいは領土問題などを起こす隠れた原因になっているのかもしれません。
ではこの寒冷化はどのくらい続くのでしょう。
長期化すると状況の悪化はもっとひどくなってくるだろうからです。
レポートは「食糧不足、水不足、エネルギー不足」に基づいて、国家の防衛戦略を立て、「柔軟な対処、国家間の友好」のもとに、「今何をしておけば後悔しないで済むかを明らかにする」必要性を強調しています。
しかし「始めは条約や貿易規制のようなことが行われるだろうが、土地や水、資源の問題は次第に暴力的になり、紛争国が絶望的になるにつれて争いは激しくなるだろう」という予測が付けられています。
その意味からも氷河期的寒冷化の継続状況は重要な問題になります。
寒冷期の継続期間は、グリーンランドのボーリング調査などから、以下のように判明しているといわれ、それは決して予断を許すものではありません。
直近の小氷河期は1,300年代からの550年間でした。
8,200年前の寒冷期は100年間続きました。
12,000年前のヤンガードライアス期は1,300年間におよび、
これらの期間には、多くの生物種や民族に多大な犠牲が出ています。
そして、過去73万年間を見てみると、寒冷化が8回起こっていますが、レポートでは「そのすべての原因は海洋熱塩循環の崩壊であった」としているのです。

元報告書からの転載グラフ(訳出サイト「連山は知恵」より)
過去の海洋熱塩循環の崩壊がなぜ起こったのかということについては不明なところが多いため、予測の確定が難しく、防衛白書としてのこのレポートは、一万年ほど前のヤンガードライアス期をモデルにした最悪の事態を想定し、対処策を講じようとしています。
何しろ今から500年ほど前の小氷期には、北欧諸国で数百万人の餓死が出たといわれ、民族そのものがバイキングといった海賊紛いになったわけですから、尋常ではありません。
この大きな気候変動には、太陽活動や宇宙線量などの影響が考えられますが、さらに今回はそれらに連動した地殻変動が関係してくるかもしれません。
現実の事件から、さらにこの問題を追及していきたいと思います。